日刊サイゾー「なぜ「ジャンプ」は変わったのか? フリー化された解釈に見る「ジャンプ」腐女子化の理由」の微妙さと、ボーイズラブに見るアニメのパラダイムシフト。
http://www.cyzo.com/2012/12/post_12020.html
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「『ジャンプ』は腐女子に媚びだしてから終わった」──。マンガ好きなら、こうした論調を耳にする向きも多いだろう。だが、これは果たして正しいのだろうか? 消費社会論と腐女子の消費傾向から、「ジャンプ」作品の変遷を探ってみたい。
なんかアチャーって感じの文章に出くわしたと思ったら、案の定突っ込まれてたという話と、ちょっとした補足。
リンク先が掲題の記事なんだけど、対象への歴史的考察が浅い(宮崎勤氏の事件とマスコミによるオタクバッシングを踏まえていない"80年代以降の日本における消費社会論"なんて何の意味があるんだろう?)上に社会学用語連発という、いかにも悪い社会学のお手本という感じでした。著者はサイゾーの記者さん? の大尾侑子(おおび・ゆうこ)さん。略歴によると「1989年生まれ。上智大学総合人間科学部社会学科卒業後、東京大学大学院学際情報学府修士課程在籍。専攻は両大戦間期宗教論、現代社会意識論。」ということなので、やはり社会学畑の方であるらしい。
うーん、最初にボードリヤールなんかをもってきておきながら、後続する文章でそれを全く受けていないところとか、過去の自分と重なって痛いのなんの…
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あまりにアレなので斜め読みだけにしておいたところ、以下の反論に出あいました。
(参考)多様な要素のひとつを「腐女子が勝手に読み替えている」のなんて今に始まったことじゃない
http://lunaticprophet.org/archives/13704
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こちらは漫画の送り手・読み手の歴史に基づいた真っ当な反論で「おっしゃる通りでございます」という感じ。いしじまえいわも、こちらの方、フリーライター兼同人作家の有村悠さんの意見である「今に始まったことじゃない」に全面的に同意です。
たとえば初代ガンダムだって79年の作品だけど大尾さんの言う"解釈コードフリー"であったと思う。下記リンク先にある通り、本放送当からガンプラ発売前までは女性のファンの割合が多かったわけだし(富野監督自身、どこかで「本放送時は女性からのファンレターが多かった」と書いていたと思うんだけど、出典が出てこない…)。
(参考)MUSTERBATOR「ガンダムの話」
http://d.hatena.ne.jp/putchee-oya/20050515/p1
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「00年以降、こうした多様な解釈の余地を持つ作品は多く生まれた」という指摘も、そういった作品の登場は有村さんのおっしゃる通り00年代に限らないのはもちろんのこと、何をさして「多く生まれた」と言えるのか、そういった傾向をもつ作品数なのか、全体に占める割合なのか、そこもよく分からない。
つまるところ、有村さんの
(前略)結局、ここで論じられていることすべて、今に始まったことじゃないの一語で片づけられてしまう。
どうにも、自分の視野に入ってきたものだけで論じられた文章に見えてしかたがない。おそらく、熱を入れて記述されている『神風怪盗ジャンヌ』は筆者の原体験のひとつなのだと思われる。ぼくと10歳違うのだから、当時小学生の筆者はリアルタイムで読者だったのではないか。終盤で妙に仔細に論じられている『エイトレンジャー』も、筆者が現在好きな作品なのだろう。
そういう「萌え語り」に立脚した論も大いに結構だが、やはり、もっと歴史を紐解く必要があるのではないかと強く思う次第である。
に賛成するしかないところです。
サイゾーの記事に論証を求めるのも若干酷ではあるけど、社会学修士課程しかも東大の学際情報学府とやらに在籍している以上、インターネットがマスコミであること、マスコミであるからにはチラ裏とは違って正確さが不可欠であることくらいは自覚しておいてもらわないと困りますね。
以下、余談です。
大尾さんはオタク界のパラダイムシフトは00年頃にあるとお考えのようですが、私は89年と96年くらいにあると思っています。前者が宮崎勤氏の逮捕に伴う当時のマスコミの「アニメファン=極悪犯罪人」という偏向報道の影響なのは自明なのでいいとして、後者は私の実体験で、初めて「ボーイズラブ」という言葉を聞いた年です。
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96年当時私は高校3年生で、部活*1の2つ下の後輩の女の子たちがアニメ作品(たしかガンダムWだったと思う)に関して、BLだBLだとキャッキャしていたので「BLって何?」と問うたところ、「先輩知らないんですか? こういうのを"ボーイズラブ"って言うんですよ」と言われた、というのが私とBLとの出会いです。
その時、それまで美少年同士の耽美な同性愛を楽しむ嗜好の呼称であった「やおい」=「山ナシ、オチナシ、意味ナシ」にあった自虐性が、ボーイズラブという言葉からは消え失せていることに非常にびっくりしたのを覚えています。
実際、私の一つ上の先輩女史たち*2はボーイズラブという言葉は口にせず「やおい」と称しており、一種の気恥ずかしさ、アンダーグラウンド感を前提としていましたが、後輩達からはそういった後ろめたさのようなものを感じずアニメのファンであることにあっけらかんとしていて、ああ、時代が変わったんだな、と思ったものでした。
96年といえば、DRAGON BALLやスラムダンク、幽遊白書などのジャンプの人気作品が好評のうちに次々と完結する一方、アニメではエヴァやガンダムW、スレイヤーズ(NEXT)なんかが人気を博していたように思います。特にエヴァが謎の最終回を迎え、深夜再放送などで社会現象になりかけており、後に更に議論百発を招くことになる劇場版の公開を控えた非常に熱い時期でした。
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これは個人的な所感に過ぎないのですが、95〜6年という時期は、元々強固に存在していた「アニメは子供の見るもの」という社会通念と、89年の宮崎勤氏逮捕後のマスコミによるオタクおよびオタク系諸文化へのバッシングという二重の暗雲が、「新世紀エヴァンゲリオン」という作品のヒットによって打ち破られ、現在に続く、コンテンツを後ろめたさを感じることなく享受できる時代の幕開けとなった期間であると考えています。
実は、個人的にはエヴァはそんなに好きではないですし、エヴァに限らずセーラームーンやクレヨンしんちゃん、ポケモンなど、アニメだけでも様々な作品がそこに力添えをしてえいたことも事実ですが、その中でもエヴァの果たした成果は正当に評価されるべきだと思います。
で、そんな時代の転換期に、やおいと呼ばれていたものがボーイズラブという言葉に置き換えられていったことには、大きな意味があるとも思います。
山ナシオチナシ意味ナシ、ではなく、愛である、と。この屈託のなさは、当時こそ「もっと遠慮しろよ!」と思いもしましたが、守っていくべき大事な文化と風潮であると思います。
「今のオタクはなっちゃいない」「全然オタクじゃない」「単なる消費者になってしまった」などという向きもありますし共感もしないではないですが、アニメや特撮が好きだというだけでバッシングの対象になった、「何かを好きであると表明すること」を規定され制限されていた暗黒時代のことを思い返すにつけ、無邪気に「好き」と言えることの素晴らしさを再確認するのです。
そんなことをふと思い起こすきっかけを作ってくれたという意味においては、大尾侑子さんにも感謝しなきゃな、と思った、ある冬のつとめてでした。
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