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アニメや特撮やゲームやフィギュアの他、いしじまえいわの日記など関する気ままなブログです。

第17回日本アニメーション学会大会に行ってきたよ。

なぜ日本は〈メディアミックスする国〉なのか (角川E-PUB選書)

なぜ日本は〈メディアミックスする国〉なのか (角川E-PUB選書)


※2015年6月18日14:58 一部誤字脱字を修正しました。
 余暇の時間ができたので、思い立ってほぼ10年ぶりくらいに学会の研究発表なるものの見学に行ってきました。今日はそのことについて書き残しておきます。前半部分は私の日記、後半からセミナーのルポになりますので、セミナーのことだけ知りたい方は日記部分はすっ飛ばしてください。


 今回行ってきた「日本アニメーション学会第17回大会」は、本邦唯一のアニメ関連学術研究団体である「日本アニメーション学会」によるもので、学会員でなくてもお金を払えば参加可能ということでした。Facebookページにて受付を済ませなければいけないものの、微妙に申込期限を過ぎていたので、案内に従って個別メールにて申込受付をし、当日お金を払って参加してきました。
 今回は6月13日(土)と14日(日)の2日程だったのですが、主要な講演などは13日に実施ということで13日の方だけ行ってきました。お値段2000円なり。両日ともに参加申し込みすると3500円になるようです。なお、イベント終了後の懇親会に参加するのも一つの目的だったのですが、参加は学会員限定とのこと。残念。


 詳細なプログラムは以下の通り。私が参加しルポを書いたのは赤字のものになります。

■第1日目 6月13日(土)(11:30〜受付開始)


12:40〜13:00 開会式(教育文化ホール 大ホール)
13:00〜15:00 基調シンポジウム「子ども向けアニメにおける少年、少女(仮)」
◎司会:須川亜紀子(横浜国立大学
◎ディスカッサント:渡部英雄(湘南工科大学)▽木村智哉日本学術振興会 特別研究員)
◎登壇者:
秋山勝仁(アニメーション監督「イナズマイレブン」他)
関弘美(株式会社東映アニメーションおジャ魔女どれみ」「明日のナージャ」他)
加藤陽一(脚本家「妖怪ウォッチ」「アイカツ!」他)


15:15〜16:35 研究発表 一般パネル(教育文化ホール中会議室)
▼権藤俊司「妖精が踊らせる〜ノーマン・マクラレンとpixillationの成立」
▼藤原正仁「アニメーション制作者の就業の現状と課題」
▼臼井直也「大藤信郎作品の1950,60年代海外映画祭への出品に関する調査報告
 ―映画祭一次資料及びアニメーション関連書籍の分析から見える映画祭ネットワークの役割を中心に」


16:40〜17:00 日本アニメーション学会賞 授賞式


17:00〜17:50 第18回総会


18:00〜20:00 懇親会(会費制) レストランポルティ(学内)



■第2日目 6月14日(日)教育人間科学部7号館(9:20〜受付開始)


9:50〜12:35 研究発表 テーマパネル 7号館201教室
▼有吉末充「アニメにおけるリトルマザーとグレートマザー」
石田美紀「ずれる〈声〉―女性キャラクター表象を中心に」
▼志田陽子「アニメ女性キャラクターに見る「ジェンダー・トラブル」」
▼中垣恒太郎「男の子向けアニメーション作品の日米比較――『ベイマックス』と『大長編ドラえもん』シリーズ」
▼平野 泉「カードゲームアニメにおける勝敗基準のジェンダー偏差」
▼関口洋美「インターネットによるアニメに関する意識調査―性差を中心に―」


12:35〜13:35 休憩


13:40〜16:30 研究発表 一般パネル
◎A会場(7号館201教室)
▼中村 浩「アニメーション作成における輪郭の効果に関する一考察」
▼吉村浩一「アニメーションや映画はなぜ滑らかに動いて見えるのか―短いレンジの仮現運動説と標本化定理説の共通点と対立点―」
▼佐藤壮平「色深度が動きの見え方に及ぼす影響について」
▼山中幸生「アニメーション教育に於けるデザイン基礎」
▼布山タルト「ワークショップ実践のためのラインテストツールの研究開発」
▼鈴木清重「「おべんとう絵本」に関する実験心理学的研究(2)―画像系列の知覚体制化と「うごき」に関する考察―」


◎B会場(7号館202教室)
▼森友令子「『天守物語』にみる妖と『風姿花伝』」
▼荻原由加里「漫画映画を教えるということ―政岡憲三の動画講義にみる事例より―」
▼渡部英雄『 仮面劇としての能とアニメーションに関する一考察――アニメーションの源流について――』
木村智哉「テレビアニメシリーズ『狼少年ケン』の新作放映終了要因とその影響」
▼野口光一「日本市場におけるアニメCGの現状―『楽園追放 Expelled from Paradise』を中心に―」
▼泉順太郎「『シグルイ』(2007年,浜崎博嗣,マッドハウス)における、殺傷表現と色彩表現について」


16:40〜17:00 閉会式(教育文化ホール 大ホール)

(20150617,「日本アニメーション学会第17回大会 第2通信(PDF版)」, http://www.jsas.net/conf/17th_con2_0517.pdf より)

  • 当日、会場まで(日記部分)。

 会場は横浜国立大学ということで、横浜駅からタクシーで行ってきました。地図で見ると近そうなんだけど、丘と山の間くらいの大きさの丘陵の上にある住宅地の真ん中に位置しているようで、とにかくアクセスがしにくかったです。
 これは余談ですが、横浜駅前で捕まえたタクシーの運転手さんが最初に「私、鶴見の者なもんで、ナビ見ながらにしますね」と断ってきたため若干イヤな予感はしていたのですが、駅前の人か鶴見区の人かは関係なくタクシー運転手ということそのものに全く不慣れな方だったらしく、いろいろ大変でした。?ナビに入力するのに10分経過(これで遅刻確定)に始まり、?メーター回すのを忘れて発車、途中で気付いて「どれだけ走っても1000円でいいから」と従量制から定額制へ移行?ドアを閉める作業を忘れたらしく開けっ放しのまま発車し、ドアがガードレールに激突、いしじまえいわ手動で閉めるが特にノーコメント?ナビ便りのせいで目的地にいつまでも着けず、目的地の周りを360度周回?ナビが役にたたないと分かり、道行く大学生に「ちょっといい?」と声をかけ、不審者として無視されること2回、などなど…
 正直言って、この後今日1日いいことがないと収支が合わないぞ、という感じのドライブでした。最後は申し訳なさそうに頭を下げ続けるドライバーさんに「お疲れ様でした!」と声をかけておきました。お互いいいことあるといいね。


 閑話休題


 キャンパスが結構大きかったため、大学敷地に着いてからも目的を探すのに苦労しました。校内案内を見ても、どうやら敷地の全貌を載せることができないためか、地図内に目的地である「教育文化ホール」の名前を見つけられませんでした。
 迷った末に、道行く大学生に今度は不審者だと思われないように声をかけ、道を聞くことにしました。教育文化ホールの場所を聞いたところ、案内が難しいと思った学生さんは「時間があるので案内します」と案内をしてくれることになった。
 理工学部3年生の男子学生さんは、線が細いタイプで、顔つきにもまだ幼さが残る、いい意味であか抜けない感じの青年でした。旋盤操作などでモノ作りの研究をしているそうで、「ロボットとか作っちゃうの?」と聞くと「いや、そこまで複雑なものは僕には…」と答える、感じのいい方でした。その日も大学図書館で勉強するつもりで登校しており、ちょうど私が声をかけたのが図書館の辺りだったので、教育文化ホールまで行く必要は彼にはなかったのですが、私のためだけに案内をしてくれたのでした。
 歩きながら「大学3年生だと、就活が始まるまであと1年弱あるね。就活するの?」と聞くと「研究職に就きたいとは思うんですけど、まだ自分が何を専門にするか決めていなくて」というので「この1年間それを追及してみて、もし見つからなかったら就活をするのもいいんじゃないかな」と答えました。まさかかく言う私自身が教育関係者で、近々君と同じく就活をすることになるかもしれない、とは思うまいて。
 彼が「就活ですか…」と視線を泳がせながら少し考えた後、何を話せばいいんでしょう? と言ったので、彼の真面目そうな性格を見越して、逆にこう聞いてみた。「君の周りの友達は勉強してる? 講義そっちのけでサークル活動や、バイトに明け暮れたりしてないかな?」すると、ああ、そういう人も多いですね、真面目に勉強しないんですよ…と少し破顔した。やっぱりね。
 「就職面接のときに、サークルの代表をやってました、とか、こういうバイトをしていました、とアピールする人が多いんだけどさ。せっかく学生なんだから、学業の話をちゃんとできた方がいいよ。それが目的で学生やってるんだし、たとえば旋盤については自分には一家言あります、専門です、って言いきれるくらい集中して学んできました、ってことが大学生を採用する価値なんだから。だから君はこの1年間自分の勉強に打ち込んでから進学か就活かを判断すればいいし、就活になった時も、自分の学んできたことをしっかり話せれば、うまくいくと思うよ」彼が真面目な顔をして聞いてくれるので、仕事の時のような、それ以上のような感じでアドバイスすると、ほっと落ち着いたような表情になったので、私も、ああ、悪いお節介にはならなかったのかもな、と安心しました。去り際に彼の方から「いろいろ話を聞いてくれてありがとうございました」と言ってくれたので、そうそう的外れでもなかった、と思う。図書館へと向かう彼に「勉強頑張ってね」と声をかけてから、教育文化ホールに入った。
 あと、話の最中に「今日は学会の参加できてるんですか。大学生…ではないですよね?」と一瞬でも大学生かと疑ってくれたので、うん、あのドライブを経て今日ここに来たのも悪くなかったな、と思った。


  • 開会式

 タクシーの遅れのため最初から参加できなかったので割愛。アニメーション学会が1998年設立なこと、第17回大会である今回の大会は、設立以来初めて国公立大学での実施になったことなどを司会の方が述べられていたと思う。

  • 基調シンポジウム「子ども向けアニメにおける少年、少女」

 続いて基調講演。司会は横浜国大の須川亜紀子准教授。登壇者はアニメーション監督の秋山勝仁氏東映アニメーションのプロデューサーの関弘美氏、脚本家の加藤陽一氏。ディスカッサント、というよりは質問担当者として、湘南工科大学の講師であり元アニメーター/演出家/監督の渡部英雄氏日本学術振興会特別研究員であり早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点研究助手の木村智哉氏という顔ぶれ。
 セミナー開始前に撮影・録音禁止の旨は通達があったものの、司会の方から「ツイッターなどもね」という旨の案内があったので、ツイッターへの連続投稿はせず、手元の紙に箇条書きでメモを残すことにした。今回のルポはそこからの書き起こしのため、数字や表現など、事実と異なる部分がある旨、ご了承ください。また、発言者については原則記載しません。


・セミナー冒頭、今回の大会のテーマである「アニメーションとジェンダー」に絡んで、司会者からゲストに「子ども向けアニメにおける少年、少女というセミナーテーマですが、そういった意識をもって作品作りをしていますか?」という趣旨の質問をし、三名ともそうでない旨回答。
・アニメ業界市場(アニメ制作会社推定の売り上げ/狭義のアニメ市場)の推移というグラフ。ここでいう狭義とは、東映アニメーションやI.G.、OLMマッドハウスなどの制作会社の推定売上という意味。2008年の約1800億円から2009年は約1400億円に落ち込み、その後徐々に回復して2013年には2008年と同程度に回復。2008年と2013年を比べた場合、劇場・ビデオグラムでの売上が減少する一方、「テレビ」の項目が約400億円から約600億円に。「配信」の収益も6年間で徐々に微増している。
・続いてアニメ産業市場(ユーザー市場推定売上/広義のアニメ市場)というグラフ。2008年の1兆4000億円の後2009年に1兆2000億円程度に下落し、2013年には2008年程度に回復。伸びを見せているのは2013年に初めて項目として登場した「ライブ」、また「遊具」(=パチンコのこと)も2008年に比べると大きくなっている。海外での収益は例年全体の1/4から1/5程度で、割合は2013年より2008年の方が大きかった模様。なお、ファッション市場は約9兆円とのこと。
・「美少女戦士セーラームーン」(1992)の対象はサブロク(3歳から6歳)、「おジャ魔女どれみ」(1999)の対象は7歳から9歳。前者では「憧れ」、後者では「共感」が得られるように留意した。
・「夢のクレヨン王国」(1997)では、主人公を原作の「25歳のシルバー王妃」から、原作者に許諾を得た上で「12歳のシルバー王女」に変更した。
・玩具メーカーによるアンケート「子供にとって不思議だなーと思うことは?」8歳児に実施、昔と変わらない結果「電話が好き」「リトマス試験紙の色が変わること」「口紅を回すと伸びたり縮んだりすること」
デジモンドラゴンボールは世界60か国に展開。セーラームーン、キャンディ♡キャンディ、どれみなどは20数か国程度。これは、たとえば女性は顔を出してはダメ、男性に意見をしてはダメ、という文化の国が世界中にあり、展開が比較的難しいため。
・テーマではなく、コンセプトを守ることを重視している。「アイカツには人の話を聞いて相槌を打つシーンが多いけど、そういうテーマなの?」と聞かれたことがあるが、前向きであることの大切さを伝えるというコンセプトがあるため、そのコンセプトを重視した結果、そういう結果になった。
・メインターゲット(たとえば子供、など)だけでなく、その周囲の人も考慮した作品作りをしている。第一に、セリフや情報の伝え方の精査は不可欠。第二に、実際の生活との地続き感は意図して盛り込んでいる。妖怪ウォッチなら「あるある」感、「アイカツ」なら「話題のアイドルへの憧れ」など。そうすることで、興味のある視聴者だけでなく、興味のない人も作品に導く。
・女の子はキレイでありたい、かわいくなりたいという風に、憧れの志向のばらつきが少ない一方、少年はかっこいいと思うものにばらつきがあるので難しい。たとえば、車を運転する大人はかっこいいという時代であればロボットを操縦するロボットアニメが受けたが、いまはそれは当てはまらないかもしれない。そのため「なんでかっこいいのか」の分析が必要。


その後、渡部氏、木村氏からの質問に3名が回答。


Q.男子向けの作品の海外でのタブーもある?
A.暴力シーンや刀などの武器を扱うシーンはカット単位で差し替えることもある。
Q.「イナズマイレブン」()において、日野社長から「昭和の香りのするアニメーションを」というオーダーがあったと聞いていますが、どうすり合わせたのですか?
A.日野さんのイメージする昭和の香りとはファンタジーのことで、戦後のリアルな昭和を生きた自分の経験とは違うのもなので、逆にやりやすかった。子供の感性は時代が違っても共通していると思っている。日野さんの言う昭和は「熱い」ということだと思うが、現在の子供も熱いことへの憧れをもっていると思うし、望んでいるはずと思ったのであのようにした。周りには「今の子供はもっと冷めてるよ」というようなことを言われたりもしたけど、今でも子供は変わらないと思っている。
Q.セミナーの中で「世界展開するコンテンツは、上下に広がる」という話があったが、具体的には?
A.TVアニメシリーズを2年間程度続けていると、お兄さんお姉さんが見ている番組を、下の子供も背伸びして見るようになるため対象年齢が2歳程度下がってくる。ただ、上に広がる作品もある。たとえばデジモンでは、結果上下に2歳ずつ4歳広がった。現在日本の1学年ごとの人口が約100から120万人なので、このように広がると大きなヒットシリーズになるし、世界60か国に展開できるコンテンツになる。デジモンはファンの3割から4割程度が女の子だったし、どれみではギャグ回などは男子の方が視聴者数が多いこともあった。
Q.「アイカツ」「妖怪ウォッチ」「デュエルマスターズ」それぞれ、男女ターゲットのボーダーを超えてますか?
A.「アイカツ」では、男子の視聴者もいると思うけど、男の子はそれを言わないので分からない。「デュエル〜」はカードゲームとしてのルールを知っている人がターゲットになるニッチな作品。もちろん分かりやすくは作っているけど、結果女の子には広がらない。「妖怪ウォッチ」では原作のゲームでも主人公の性別を選べるし、キャラもかわいいので女の子にも受けるだろうと思っていたが、期待以上に女の子の視聴者が多かったので、今後も女の子の登場人物を増やします。また、笑いの要素を入れておくと男女ともに食いつきがいいので、「笑える作品に見えること」を重視していく。
Q.男女ターゲットが広がったという結果を受けて、作品の作り方を変えることはありますか?(=作品へフィードバックしますか?)
A1.「イナイレ」では元々10歳前後の男子をターゲットにし、その後5歳〜12歳まで広がった。女子チームも入れたりしたが、中高生〜大学生の女性ファンが増え、制作内でも「それを取り込もう」となってきた時に「世界観的にどうだろう」と思った。
A2.劇場版をやると逆に対象年齢が上がる。これは監督や製作スタッフの好みや、「映画を作ろう」との意気込みから手法が変わることによる。たとえば「デジモン」など、細田監督が劇場版をやることによって対象年齢が上がり、作品としてのコンセプトやターゲットがぶれてくる。映画を作ろうとすると、作家性が出てきてテレビアニメはダメになる。そういう時は、テレビと映画のスタッフを分けたり、プロデューサーを変えるなどして原点に戻る。長期シリーズになった場合も、スタッフが飽きてきて別のことをやりたくなってしまい、結果ぶれることになるので、同じくプロデューサーを変えたりすることになる。
A3.「アイカツ」では、対象年齢が9歳、7歳、5歳とだんだん下がっていき、プリキュアとかぶるようになった。女の子は子供っぽいものを嫌い、大人っぽいものを好むので、想定するターゲットを上げていかないといけない。「最近下がっちゃってるよね」等という。アイカツおじさんは想定していなかったターゲットだったが、子供への普及が顕在化する前から現れていた。ただ、あくまで子供向けのため、メインターゲットにはしないし、それによる作品へのフィードバックもしない。


 その後、一般参加者からの質問


Q.(「闘士ゴーディアン」研究家を名乗る女性)デビュー作のゴーディアンとイナイレは似ているところがあると思うが、影響はありますか?
A.アニメに参加する前はドキュメンタリー番組の構成などをしていたし、デビュー作であるゴーディアンも終盤の10本程度の参加だったので、作風云々よりもアニメに慣れることに一生懸命だった。作風は当時の監督らのもので、自分の監督作品と似ているとしたらそれは偶然。
Q.(高齢の男性)いわゆる「大きなお友達」は特に劇場作品などではマーケット的に無視できないと思うのですが、いかがですか。
A.今年の春アニメは125本程度あり、そのうち子供向け作品は約1/4、30本くらい。この30本で稼いでいる売り上げは、先ほどの1兆4000億円のうちの約9割です。海外市場でもその比率は8対2くらい。映画公開初日のニュースなどでは大きなお友達が詰めかけているように見えるが、その他の日は午前10時、11時、13時半の回で見るファミリーがほとんど。ここから「大きなお友達」は、無視できないというほどの市場規模ではない、と判断しています。
Q.東映アニメーションの長期シリーズ(プリキュア、ワンピースなど)の今後の展望は?
A.プリキュアは最初の4年間は同じプロデューサーだったが、10年以上続けられるシリーズになるだろうと判断し、その後は1、2年でプロデューサーもキャラクターも替えるようにしている。これは、もっと長く続いているスーパー戦隊シリーズのスタイルに倣った。ワンピースは、原作者が20年以上やるつもりという発言をされているそうなので、東映もやります。
Q.「裾野を広げるのに笑いが重要」ということと、ジェンダー問題は繊細な関係にあると思うが(男のくせに、女のくせに、等)、どう意識しているか?
A1.そもそもジェンダーネタが笑いを取りやすいとは考えていないし、男のくせに/女のくせにが面白いとも思わない。
A2.アニメーションの笑いは汗ジトの記号やレレレのおじさんの走り方など、表情、動き、顔や体の変形など、画で生まれる。子供が反応するのはセリフではないと考えている。
A3.「じゃりん子チエ」(1981)で学んだが、笑いは哲学的な面があり、差別的なものであってはならず、気を付けるべき。


 基調講演は以上でした。以下は個人的な所感です。
 「子ども向けアニメにおける少年、少女」というセミナーのテーマと「アニメーションとジェンダー」という大会のテーマを軸に考えると、このセミナーはジェンダー問題に踏み込んでいないため、全く体を成していなかったように思う。制作者の話の中から無意識的なジェンダーバイアスと関連する社会問題を抽出して批判的に追及しないとテーマの意味がない。もう少し控えめに言えば、学術サイドである質問者側が、現場サイドであり学術畑ではないゲスト側に対して少々遠慮しすぎているように思えた。
 一方、ゲストらによるアニメ産業に関するレポートと体験談としては非常に興味深い内容が多く、意義のあるものだった。特に売上推移のグラフ2種、シリーズの長期化や劇場版の制作によってターゲット年齢が上下に変化すること、売り上げの中での「大きなお友達」のウエイトなど、初めて聞く情報が多く、現場の方をゲストに招いている価値のある内容だった。特に東映アニメーションの関氏は、お持ちになったデータが整理されており、経験則もうまくまとめて分かりやすく説明してくれるので、非常に興味深く話を聞けた。
 総じて言えば、大会のテーマとはやや乖離があったものの、アニメ産業を読み解くにはとても有意義なセミナーだった。

  • 研究発表 一般パネル

 ここから先は個人による20分程度の研究発表に関するルポです。


・「妖精が踊らせる〜ノーマン・マクラレンとpixillationの成立」権藤俊司氏(東京工芸大学准教授)
 人物写真によるコマアニメーションを「pixillation」と言うそうで、その語源に関する研究。『妖精のピクシーに惑わされた』ということから「頭がおかしい、風変わりな、混乱した」というような意味の言葉だったが、1950年代頃にノーマン・マクラレンという映画監督が上記のような表現技法を指す言葉として使い始めた、ということらしい。なお、ピクセル化するという意味の言葉「pixelation」とは、語源のレベルで別の言葉なので混同に注意。
 

・「アニメーション制作者の就業の現状と課題」藤原正仁氏(専修大学ネットワーク情報学部准教授)
 アニメ制作者の労働環境に関する実態調査5つを元に、現状と課題を探る研究。参照した調査は以下の五つ。
 ・芸団連(2005)『芸能実演家・スタッフの活動と生活実態調査報告書2005年版:アニメーター編』
 ・JILPT(2005)『コンテンツ産業の雇用と人材育成:アニメーション産業実態調査』
 ・大橋雅央(2006)「アニメーターを主としたアニメ制作者の労働実態に関する現場調査」
 ・JAniCA(2009)『アニメーター労働白書2009』
 ・JAniCA(2015)『アニメーション制作者実態調査報告書2015』
 面白かったのはアニメ関係者の賃金の全産業平均との比較。「20代のアニメーターの平均年収110万円」等と言われる賃金問題に関して、確かに44歳以下までは全産業の平均値を下回り、特に若いほど乖離が激しいものの、45歳以上になると逆に平均値より上になっていた。優秀な、本当に稼げる人だけが残る産業構造になっていることが顕著に分かった。
 ただ、上記5つの調査の対象が「アニメーター」(動画、原画、作画監督くらいまで?)なのか「アニメ制作関係者」(制作進行や監督、プロデューサー等も含む)なのかがまちまちであり、ちょっとばっくりしすぎているきらいがあった。また、課題解決に向けての提言が「アニメーション産業の多層取引の適正化」「アニメーション制作者のQOL向上」など、これもばっくりしすぎているところも拍子抜けではあったが、今後の研究課題としてまだ余地があることが分かったのはよかった。


・「大藤信郎作品の1950,60年代海外映画祭への出品に関する調査報告―映画祭一次資料及びアニメーション関連書籍の分析から見える映画祭ネットワークの役割を中心に」臼井直也氏(東京外語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程)
 大藤信郎という1950〜60年代の日本のアニメ監督について、「くじら」「幽霊船」等の作品で海外で評価を得た、という評価をされているが、実際はどうだったのかという調査。調査対象は以下9つの映画祭。
  ・第5回カンヌ国際映画祭(フランス、1952)
  ・第6回カンヌ国際映画祭(フランス、1953)
  ・第1回国際アニメーション映画祭(フランス、1956)
  ・第17回ヴェネツィア国際映画祭(イタリア、1956)
  ・イギリス国際アニメーション映画祭(イギリス、1957)
  ・トゥール国際短編映画祭(フランス、1957)
  ・メルボルン映画祭(オーストラリア、1958)
  ・オーバーハウゼン国際映画祭(ドイツ、1960)
 調査の結果、賞の受賞が確認できたのは第17回ヴェネツィア国際映画祭(佳作)、その他は受賞せず参考上映のみか、参考上映されたかどうか不明瞭、ということだった。また、第5回カンヌ国際映画祭では上映されなかったので海外での認知につながらなかったものの、第6回以降は映画祭で上映され、書籍などで情報発信がなされる機会もあり、認知・評価につながった、とのこと。

 今年の受賞者として『なぜ日本は<メディアミックスする国>なのか』(2015年/KADOKAWA 原著:『ANIME'S MEDIA MIX: Franchising Toys and Characters in Japan』Marc Steinberg(2012/University of Minnesota Press))を上梓したマーク・スタインバーグ氏が選ばれ、表彰されました。また特別賞として、アニメーション学会設立時に会長と副会長を務めた大山正氏、鷲見正成氏と、その著書『見てわかる視覚心理学』(2014年/新曜社)が選ばれ、表彰されました。

なぜ日本は〈メディアミックスする国〉なのか (角川EPUB選書)

なぜ日本は〈メディアミックスする国〉なのか (角川EPUB選書)

見てわかる視覚心理学

見てわかる視覚心理学

  • 第18回総会

 総会とその後の懇親会は学会員のみ参加可とのことだったので、学会員でない私はマーク氏の著書をその場で買ってここで退出。後で読んだらここに感想を書こうと思います。



 以上、ルポでした。
 全体の所感としては、新しい情報がたくさん得られたこと*1、アニメ産業に関する研究・提言というテーマにおいてまだまだ余地があることが分かったので、とても有意義でした。
 自分のアニメ業界の何かの役に立ちたいと思っているので、こういった場で発表することになるかどうかはともかく、このテーマで何か調査・発表をしていけたらと思います。

*1:ゴーディアン研究家という人がこの世に存在するというのも、純粋な驚きでした。