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アニメや特撮やゲームやフィギュアの他、いしじまえいわの日記など関する気ままなブログです。

村上隆講演会「アートとは何か? 芸術起業論」 参加レビュー

 先月末に会社の内定式で東京に行っていたのですが、その会社で思いがけず村上隆の講演会に遭遇。開催日の4日まで東京滞在を延ばして参加してきました。参加者多数により立ち見も満席だったのですが、関係者という扱いでねじ込んでもらうことに成功。やったぜ。
 では、以下半ば箇条書きで。


 学生向けのイベントということで、これからクリエイターになる人に向けて、という感じの講演でした。「私は20年前、みなさんの方の席に座っていたわけですが…」という感じの話し出し。また、村上氏が最近『芸術起業論』という本を刊行されたそうで、それと絡めてのトーク内容でした。また、村上氏の会社で制作スタッフを募集しているため、生徒から見れば会社説明会的な催しでもあった模様です。
・ビジネス書が好きでたくさん読んでいる。ホリエモンの本をはじめ、最近のIT長者の本は読破した。
・彼らと私(村上氏)の違いは、日本を商いの拠点にできているかできていないか。自分はできていない。
・自分のテーマは日本のサブカルチャーを世界言語に置き換えること(この辺メモがあいまい)。
・グラフィックデザイナーの佐藤可士和氏やDJの藤原ヒロシ氏との会話を例に出しながら「国内と国外では世界が違う」という話。例えばケンゾーに香水のビンのデザインを頼まれた時、国内の有名な企業とギャラが1、2ケタ違った。とか。
・自分も今オリジナルアニメーションを作ろうとしているけど、国内のスタジオだと制作費が高い。
ガイナックスの山村さん(誰かは分かりませんでした)に韓国のアニメスタジオを紹介されている。韓国のスタジオだと安いコストで技術も高いし、まだ2Dを描ける人もいる(日本では設備も人も少ない)。迷ってる。
グローバル化はコンペティションを伴う。何でも安い方に流れていくのが当たり前。日本ではなんか違うけど。
○日本は制作費が高い。これから日本はそのためキツくなっていくだろう。
・今現代美術では中国がアツい。大きなホールを月2000円くらいで借りられるので100人くらいでものを作れる。場所代が安いから安く作れる。
・M.I.3のラストシーンも中国だった…
・ヨーロッパの若いアートコレクター(実業家、みたいな言い方だったかも)は30歳にもなればパーティーを開いて、そこに若手アーティストの作品を置いておくくらいしておかないといけない(→だから若いアーティストの作品には買われるチャンスがあるし、買ってもらうためには安くないといけない。買ってくれる人も最初から大物というわけじゃないから安くないと買えないし)。
・自分は29歳の時にデビューしたんだけど、その時に「安くないと」と思って自分の作品の値段を4割落とした。そしたら日本の画廊の人に怒られた(日本では高くないと箔が付かないから?)。
・日本はコンペティティブになろうとしていない。横並び、談合。それはそれでいいと思う。けどどこかこれまでのものと違うものを作ろうと思ったらお金はかかってしまうし、そのためには安く作ろうとしないといけない。売れればネームバリューがついて高くなる。
・自分の作品は今1億3000万円になってる…というのは自慢ではなくて、買える人が少なくなってしまって困ってる。


・20歳でなにかできる人と30歳で専門的なことができる人だったら、迷わず若い方を選ぶ。若い方が新しいことに適応できるから。
・でもクリエイターにとって必要なのはコミュニケーション能力(ここで「でも」とつけたのは、いくら若くてもうまくやっていけそうにない人を取るくらいだったら、年をとって人付き合いを心得た大人を取る、ということだと思う。この辺りからやや就職活動について、みたいな感じの雰囲気になる)。
・自分はコミュニケーションが苦手だったから芸術家になったんだけど、それでうまくいきだすといろんな人が買ってくれたり援助してくれたりしだすから、やはり上手に仲良くやっていかないといけない。どんな人とでもコミュニケーションでツメていく。これがクリエイターにとって一番重要。
・昔駆け出しの頃に影響を受けた三人の講演があった(ここで最初一人と言ったんだけど、三人と訂正した)。一人はマリオメルツさんというイタリア人のアーティストで、一人はクリストさんというドイツ人のアーティストで、もう一人はカワシマさんという日本人のアーティストだった。カワシマさんはとにかく「日本はダメ、世界」という話で、マリオメルツさんはとにかくずっと難しい数学の話をしていた(数学をモチーフとしたアーティストらしい)。クリストさんの講義はとにかく話が面白くて、どんなにつまらない質問にもすごく面白くてためになる話で返していた。この人に感心してコミュニケーションを大事にしようと思った。
・マリオメルツさんは今でも数学っぽいことをしていて、カワシマさんは今どこで何をしているのか知らない。クリストさんは今でも積極的な活動をしている(巨大な傘を世界中に立てているらしい。その作業でスタッフが死んだりする)。
・自分が何を作りたいのかを考えて自分をマネージメントしていこう。


 ここからスライドショーを用いた自作の紹介・説明。
・ドブくん(Mr.DOB):ソニックザヘッジホッグとドラえもんミッキーマウスを掛け合わせて、自分にとってキャラクターとは何かを表現した。写真はここ
・ドブくんを用いた巨大な絵(正式名称不明):キャラクターにメッセージを与えようとした。死の痛み(当時村上氏が病気で苦しんでいたため)。
・ココちゃん(Miss Ko2):海洋堂のボーメさん(誰だか分かりませんでした)と作った。写真
ヒロポン(HIROPON):写真
ヒロポンの男版みたいなの:『ファイナルファンタジー7』のクラウドが全裸で自分のアレを掴んでいて、その先から白い液が円状に飛び出しているような造形だった。
・女の子の胴体がガパッと開いて変形してる最中の立体物:『超時空要塞マクロス』のバルキリーと美少女を足した。
・キノコの椅子
・メメメのクラゲ
・個展「リトルボーイ
ドラえもんとのコラボ:当初は「芸術を勘違いされるんじゃないか?」と思って消極的だったが、藤子プロのイトウさんのすごい熱意で(それはもうすごい熱意だった)実現した。結果的にはガンダム展などのアート+サブカルチャーの先駆けになった。
・ゆずとのコラボ:こちらもゆずのプロデューサーが自分のファンで、すごい熱意で実現した。
・ヴィトンとのコラボ:ファッションとかに興味のなかった自分の人生を変えた。ヨーロッパの社交界に触れた、知った。マルチカラーは今でもヴィトンの売り上げの約1/6を占めている。
・池の上の蓮の上にインスタ:設置だけで3000万円かかった。この金額は日本の美術界では在り得ない。
・日産とのコラボ、ピボちゃん
・ドラマ『ブスの瞳に恋してる』の広告


・苦労してもいい物を作る。これまで満足できるものしか作っていないから、一回の失敗もない。
・漫画家の細野不二彦氏は『ギャラリーフェイク』で自分を批判していたけど、彼はアートの世界においてどのように権威ができていくのか理解していないように思う。もし自分のものを否定するのなら、同じようにピカソも否定しないといけない。
○ハイクラスの人はアートに寄ってくる。


 以下質疑応答。いい質問をしてくれた人には村上氏が持ってきた『芸術起業論』をプレゼント。
Q.芸術家として葛藤はあるか(質問が多くて不鮮明だった)
A.芸をする人は機械化しなきゃいけない(ex.野球選手とかお笑いとか)。自分はできていないからそれが葛藤。プロは機械化するためにトレーニングをする。自分は今コミュニケーションをトレーニング中。
 自分のスタジオにミスタくん(こんな名前だったように聞こえた)というのがいて、彼は7年前、自分がキャラクターとかに萌える人であることが告白できないのが悩みだった。それをアートにぶつけたら「私も」「分かる」という同じような悩みを持つ人からの反響を得ることができた(7年前だから。今は萌えとか普通…と言っていた)。


Q.××(遠くで質問が聞こえなかった。女性だった)
A.ヒロポンを発表したギャラリーのオーナーはゲイだった。N.Y.などのアートシーンにはゲイ(レズビアンも含めて)の人が多い。彼らは自分のセンシビティをアートで補完している。それを通じてセックスマイノリティについて考えた(自分も2次元コンプレックス気味だし…)。
 ヒロポン(男女両方)には性器がない。
 ヒロポン(男)の顔は『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンボール』、体はリアル、液はアート的な造形。立ち姿は仁王像も参考にした。日本人のセックスコンプレックスを表した。ゲイをパロディにしているわけではないと説明するのが大変だった。
 ヒロポン(女)を見て向こうの人は「オービックブレスト(さも普通そうに)」。向こうではあの大きさは結構普通らしい…


Q.デザインなどの制作費が日本は高いというお話だったけど、実際自分は食うのも大変。もっと地位を上げるべきでは?
A.日本の物価を考えると安いかもしれないけど、世界の物価を考えるとやっぱり高い。
○日本は不動産が高いのが諸悪の根源。国外なら安く作れるよ。自分も30歳を過ぎてから英語を勉強した。いろいろ大変だとは思うけど、そのため(海外に出るため)にコミュニケーション能力を鍛えるのもいいかも。


Q.××(女性でした)
A.ヴィトンとの契約書は全70ページ。芸術だと思う。これを作るのに2年かかったし、弁護士に数千万円払った。ここで僕が言いたかったのは「自由にデザインさせてくれ!」の一点だけ。この契約書のおかげでアーティストの自由が確保されたし、ヴィトンの売り上げにもつながった。ウィンウィン。
 フランス人は自分が地球の中心で日本人なんかプーだと思ってるから大変だった…


Q.客に合わなかったことは?(上の人と同じ人)
A.ないよ。頼まれたからにはちゃんとお客の求めるものを作ってきた。


Q.キャラクターとは何か(追手門大学の男性)
A.よく海外のプレスの人にも聞かれる。2ちゃんねるのギコネコとかは文章で書くと7、8行にもなる内容を一つのキャラクターで表現している。漫画家の手塚治虫先生が「漫画は記号である」というようなことを言ったんだけど、プレスの人にもそのようなことを答えている。
 西洋人は事実と歴史から物事を見る。日本人は現象を追うから歴史を重視しない。例えばオフィスに置いてある食玩ガンダムか動物か、動物でも鳥類か哺乳類かでその人の人となりがなんとなく分かる。論理でなく気分でメッセージを読む/伝える高いスキルをもっている。


 この辺で終了。最後に氏の会社「キキカイカイ」への就職意欲を問うアンケートを配られたのでそれに回答して帰りました。


 個人的に印象的だったのは、氏が「コミュニケーションが苦手」と重ねて言っていたところでした。ヴィトンなんかのイメージだったからすごく明るくて根が社交的な人かと思ってました。実際2時間予定の講演のうち40分くらいしか喋ってくれなかったし(しかもその半分くらいはスライドショー)…華やかな印象は努力の賜物だったのね。
 あと上ではさくっと書いたのですが、「日本は(人口に対して)国土が狭い→土地が高い→制作にかかる場所代や人件費などの経費が高い→広くて安い国に行った方が同じお金でいいものが作れる→海外進出がおすすめ」という話は分かりやすくて納得できました。


 あと質疑応答終了後に「生徒さんの質問し方がとてもしっかりしていたんですけど、先生方はどういう教育哲学を持っておられるのでしょうか?」と感心していたのも印象的でした。各質問者は「自分の所属(○○校××コースとか)」+「自分の名前」+「本日は貴重な講演ありがとうございました」+質問という感じでいたって普通…というか私としてはちょっと冗長だと思うくらいだったんだけど、それがよかったらしい。
「私は数年前までいろんな学校で今日みたいに講演させてもらってたんですけど、ここ2年くらい全くしてなかったんです。○○や××や△△(各種美大)なんかで講演してると『村上さん有名ッスけどー』とか言われたりする。ッスって…クリエイターにありがちな全能感…もちろん彼らは距離を縮めようとしてそういうことを言うんだろうけど、やっぱり場を読んでほしい。今日の講演は久しぶりなのでそういうことがないか私も緊張してたんだけど、よかったです。質問者の方の話し方も理路整然としていて、外国人と話しているようでした」
 こんな感じでした。まあやる気のある人は自然と話し方にも意識が向くとは思います。


 一生懸命話してるなあという感じの講演だったけど、メッセージが鮮明な講演でとてもよかったです。