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アニメや特撮やゲームやフィギュアの他、いしじまえいわの日記など関する気ままなブログです。

太宰治『人間失格』、新潮社、1948

人間失格【新潮文庫】 (新潮文庫 (た-2-5))

人間失格【新潮文庫】 (新潮文庫 (た-2-5))

 先日書いた合評会用に読みました。今更、って感じですが…
 太宰治が死に際に残した(連載の途中で自殺し、その後続きが連載誌に掲載された)作品のため、長い間遺書/自伝的な読み物とされてきた作品なのだそうです。が、私は太宰に関して『走れメロス』を書いた人、くらいしか知らないため、完全にいち小説として読ませていただきました。

 私の感想はいたってシンプル。面白かった。です。ボンボン・根暗・ナルシス・ダメ人間の自己弁護ですよね、これ…
 人が怖い(あるある)、自分の本性を出せない(あるある)、いつも回りのことばかり気にしてご機嫌取りをしている(あるある)…と、あるあると合いの手を入れながら読みました。主人公の葉蔵さんが上記のようなことを挙げながら「自分は人とは違う」とか「人間として何かが欠けている」とか言うたびに「みんなそうだyo! お前のお父さんも見下してる友達も同じこと考えてるんだyo! 気にしすぎなのお前だけだyo〜」とか思ってました。葉蔵さんずっとそれに気付かず最後まで行っちゃったので、ラストのシーンではママと一緒に「人間ああなってしまってはダメね」とスッキリと読み終えることができました。
 あと、葉蔵さんのダメっぷりがかなり如実に描かれているのにも感心しました。こいついくら自分が変だ変だと言っても全然治そうとしないし、むしろ「それが自分の個性だ、他人には理解できないんだ」くらいに思ってるのがおかしかったです。自分のことをイケメンだと思ってるし、素で周りのやつはみんなバカだと思ってる(でも度胸がないから誰にもそうは言わない。そのせいでその間違いに気付かない)。あと異様に処女性にこだわるし。典型的なヒキオタ要素満載です。いつの時代も変わらないんですね。
 流石文豪、時代を経ても変わらない人間のダメさを上手に正確に描いてます。まだ読んでない方にはマジオススメです。すごい読みやすいですし、今の時代に照らし合わせても「あるある」と思えるのでかなり軽く読めると思います。ただ、判断力のない中学高校のときに読んじゃったら変な影響受けちゃうかも。そういう意味ではマジ危険。


 で、私が感心したのは、上記のようなダメ人間をただ描くだけでなく、最初と最後に客観的なシーンを設けることで「こういうのってかっこいいんじゃないんだよ、ダメなんだよ」と釘を刺しているところです。太宰自身は葉蔵に似た人生を送った人だと聞いていますが、自著の主人公に比べてかなり誠実な人だったのでしょうね。太宰はまじめに悩んでたから死んじゃったし、葉蔵はただのアホだから死に至らない。もし本当に自伝にしたかったら葉蔵も自殺するはずですよね。
 この本を単に太宰の自伝と考えるのは、作家としての彼をナメすぎで失礼なんじゃないでしょうか。本気で「『人間失格』=太宰の人生」とか考えている人ってそんなに多かったんでしょうかね?*1 それとも当時はこういうのがマトモに受けていたんでしょうか? だとすると私の太宰評はかなり変わっちゃうので悲しいです。


 蛇足ですが、面白かったのは葉蔵に対する評価がホリグチくん(仮称)とミネさんとで真っ二つに分かれたことでした。ミネさん的には「葉蔵は誠実な人(自分に対して誠実すぎるあまり窮屈な生き方をせざるを得ない)」なのに対し、ホリグチくん的には「そんなの誠実じゃない(誠実さが外に向いていない以上正直である意味がない)、誠実という概念に対して失礼だ」みたいな感じでした(意訳)。ホリグチくん的には読む分には滑稽だけどそんなやつ近くにいたらムカつく、ミネさん的にはそういう息苦しくなるまでの誠実さに魅かれるのだそうです。
 ミネさんのってアレですよね、ダメ男に魅かれる女性の心情…? 傍から見てる男からしたら「なんであんなヤツに尽くすのかなあ」、女の子本人的には「純粋な人よ」*2。よくありますよね。こういうところもリアルで面白かったです。

*1:ちなみに私が手に取った文庫の解説の人は、本気でそう思っているようでした。正気か?

*2:そういえば、かの有名な赤い彗星の方もこんな感じですよね。勝手に思い詰めて無茶をして人に迷惑をかけるんだけど、女の人に言わせれば「純粋なのよ」…こういうタイプがもてるんだなあ。