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アニメや特撮やゲームやフィギュアの他、いしじまえいわの日記など関する気ままなブログです。

やらおん!「村上隆氏、語る「『クール・ジャパン』」なんてうそ、流言です」」をきちんと読んでみる。

http://yaraon.blog109.fc2.com/blog-entry-6658.html
 タイトルを読んで、やらおん! さまのまとめを読んでカッとなったんだけど、ちょっと落ち着いてからまとめ記事と元の文章をきちんと読み、解読を試みてみた。
 結論から言うと、まとめ記事の方が恣意的なまとめ方をしすぎです。村上氏の言っていることの方が妥当性がある、と個人的には思いました。


 まずはまとめ記事で抜粋されていた部分から分析。

――今、日本のアニメやマンガは「クール・ジャパン」として海外で評判です。村上さんは、その旗手とも見られているようですね。

 「『クール・ジャパン』なんて外国では誰も言っていません。うそ、流言です。日本人が自尊心を満たすために勝手にでっち上げているだけで、
広告会社の公的資金の受け皿としてのキャッチコピーに過ぎない。
外国人には背景や文脈のわかりづらい日本のマンガやアニメが少しずつ海外で理解され始めてはいますが、
ごく一部のマニアにとどまり、到底ビジネスのレベルに達しておらず、特筆すべきことは何もない。
僕は村上隆という一人の芸術家として海外で注目されているのであって、クール・ジャパンとは何の関係もない」


 これはぶちゃけ事実。そもそもクール・ジャパンという言葉自体、ダグラス・マックレイという当時弱冠28歳の研究員が書いた「Japan's Gross National Cool」(日本の国内総クールさ)というレポートに依るもので、正直大した意味があるものではありません。
 上記レポートの趣旨も、単に日本のアニメや漫画が素晴らしいというよりは、自国の歴史・文化に捉われず他国の文化を取り込んで自分のものにしてしまう(結果としてアニメや漫画やファッションにおいて独自のものを作ってしまう)という日本のスタイルが素晴らしい、というもので、私としては「そんなの昔から知ってるし、それが日本の『歴史』だよなあ」といった感じです。


 (参考1)5-3 Japanese Cool
http://hw001.spaaqs.ne.jp/iica/iicasub5-3.html


 そのような、どちらかというと「言ってみました」レベルの「クール・ジャパン」という言葉を2000年代初頭のIT・コンテンツバブルに乗っかっていいように解釈し、嬉々として使っていたのは、村上氏の言う通り国際戦略として日本のコンテンツを売り出したい立場の人達でした。
 個人的には日本のコンテンツを戦略的に海外に出していく事は悪いことではないし、むしろそうすべきだと今でも思っているけど、村上氏が「アーティストである自分を、そういった金もうけのための言葉で括らないでくれ」と思うのも分かる。


 次。

 ――では、村上さんの、何が評価されていると思うのですか。

 「日本の美を解析して、世界の人々が『これは日本の美だな』と理解できるように、
 かみ砕いて作品をつくっていることだと思います。僕は、戦後日本に勃興したアニメやオタク文化と、
 江戸期の伝統的絵画を同じレベルで考えて結びつけ、
 それを西洋美術史の文脈にマッチするよう構築し直して
 作品化するということを戦略的に細かにやってきました。
 それが僕のオリジナリティーです」

 まとめ記事を最初に読んだ時、私はここで「『江戸期の伝統的絵画』に基づいた『戦後日本に勃興したアニメやオタク文化』イコール『クール・ジャパン』なんじゃねーの!?」と思ってムカッときたわけです。村上氏よ、お前は何なんだ? と。


 そして以下の引用でまとめ記事は終わっています。

――それでも、日本政府は「クール・ジャパン」のアニメや玩具、ファッションなどを海外に売り出そうとしています。

 「それは、広告会社など一部の人間の金もうけになるだけ。
 アーティストには還元されませんし、税金の無駄遣いです。
 今やアニメやゲームなどの業界は、他国にシェアを奪われて、統合合併が相次ぎ、惨憺(さんたん)たる状態。
 クリエーターの報酬もきわめて低いうえ、作業を海外に下請けに出すから、
 人材も育たない。地盤沈下まっただ中です」

 これらのまとめ記事だけ読むと、同じ穴のむじなが相手を罵っているかのような、五十歩百歩感を受けます。どうやら村上氏としては、クール・ジャパン側の人とは「広告会社など一部の人間」であって、自分は違う、と言っているようですが…
 そもそも「クールジャパン」という言葉自体定義がかなりあいまいな言葉で、天下の wikipedia ですら驚きの薄さ。


 (参考2)クールジャパン - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%91%E3%83%B3


 そういうわけで、「何がクール・ジャパン的なものなのか」はかなり主観に依る可能性が高いです。だから村上氏の言う「クール・ジャパン的なもの」は何なのか? について考える必要がありそうです。


 で、以下がまとめ記事で引用されなかった部分。

 ――そうした中で、日本の文化を世界に発信するには、何が必要なのでしょう。

 「著作権の整備です。日本のコンテンツが海外に売れても、利益はわずかなのが現状です。映像化権などさまざまな権利も海外に取得されてしまい、日本側の収益につながらない。そんな状態で、クール・ジャパンなどと浮かれていていいのか。もっとアーティストに利益が還元されるように、著作権をはじめとする法制度の整備が急務です。それなのに、日本国政府はビジネスの現状も知らず、国際的な著作権の動向に関してはアメリカに主導権を握られてしまい、右往左往して何も有効な手が打てない」

 ――欧米のほうが、芸術活動をする環境としては、日本より優れている、と。

 「そうは言いませんが、欧米には、美術館の学芸員らの人材が豊富で、作品をきちんと評価し、価値付けできるメソッドがある。審美眼を備えて信頼するに足るアート市場もある。意地悪なジャーナリズムもよく勉強していて対抗しがいがある。一方、日本は美術館はたくさんあるだけ。ジャーナリズムは印象批評に偏っており、マーケットを蔑視している。オークション会社にしても、贋作(がんさく)をカタログに載せていたりする」

 「日本の場合、教育に目を向けても、美術大学は無根拠な自由ばかりを尊重して、学生に何らの方向性も示さない。芸術には鍛錬や修業が必要なのに、その指導もできない。少子化や国立大学の法人化で、学生がお客さんになってしまい、教師は学生に迎合している。お陰で、あいさつさえまともにできず、独りよがりの稚拙な作品しかつくれない学生ばかりが世に送り出される。先鋭的なものは何も生まれてこない。だから、世界に出ていって通用する芸術家が日本にはほとんどいないんです」

 ――それでも、日本で独自に発展を遂げたものもあるでしょう。たとえば、マンガやアニメとか。

 「第2次世界大戦でアメリカに原爆を投下され敗戦した日本は、国家としての主体性を持たないまま、アメリカ依存のもとで、平和な日常を送ることができた。そんな状況の中から生まれてきたのがサブカルチャーやオタク文化なんです。あだ花のような文化です」

 「あだ花を大輪に育てるには仕組みが必要なのに、そこへの興味も無いし、労力も惜しむ。僕は世界でどうやってトップを取るかに集中しています。日本人はゴルフでもテニスでも世界一を取れない。なぜか。国内でそこそこ楽してやっていけるから、安心しちゃっている。地方自治体が街おこしにアートを利用するから、アーティストも結構楽にやっていけるので、海外に目が向かないし、無根拠にもの作りを推奨しすぎる。ぬるい」

http://digital.asahi.com/articles/TKY201201160436.html


 この辺りまで読むと、大分村上氏の「クール・ジャパン」という言葉に対する考えが見えてきます。村上氏の論旨は、個人的ざっくり解釈では以下の通り。

  • 別に漫画やアニメなど「クール・ジャパン」的なものと言われるジャンル・作品がレベルが低いとかそういうことを言いたいわけではない。むしろもっと盛り上げて、世界中で流行らせるべきだと思っている。
  • なのに、日本という国自体が本気の海外戦略(=お金を回収する)に打ってでていないし、儲けたお金をアーティスト(個人的には「作者」「クリエイター」という言葉の方が分かりやすいと思う)に還元し、もっといいものを作れるようにする環境作りもしていない。
  • そんな状態で「クール・ジャパン」とは片腹痛い。

 
 そのような考えに基づき、

  • 私(村上氏)は本気で海外戦略した結果、アーティストとして海外で評価されているので、「クール・ジャパン」などという言葉で括ってほしくない。


 というスタンスが生まれているわけです。


 個人的には、村上氏の漫画やアニメや日本の文化に対するリスペクトも感じたし、それらの海外戦略やクリエイティブのサポート体制ができていないことに対する憤りには共感しました。主張も理路整然としていると思います。
 それをニュースの記事や2ちゃんねるのコメントの一部を恣意的に抜き出して「変な人」に仕立てている今回のやらおん! さまの記事のまとめ方は、正直なところ感心しませんでした。


 やらおん! さまが村上氏の主張を貶める理由は、正直私には分かりません。本当に村上氏が意味の分からないことを言っているように感じているのかもしれませんし、村上氏を貶めることによってお金が入る仕組みがこの世の中にはあって、それを狙ったステルスマーケティングなのかな? とも思います。
 どちらにせよ、マスメディアの担い手である自覚がないんじゃないか? というのが今回の私の所感です。マスゴミとか言って旧来のマスメディア企業を批判している場合じゃないぜ。


 加えて我がふり直して、一部抜粋されている文章はちゃんと原典にあたる必要があるな、と再認識しました。これこそまさにメディア・リテラシー
 LM314V21を読んでくださっている皆様も、ぜひお気を付けください。一部抜粋されている文章は、ちゃんと原典にも目を通しましょう。それが成熟したネット廃人ってもんです(え?)。


芸術闘争論

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Study Guide メディア・リテラシー 入門編

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