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アニメや特撮やゲームやフィギュアの他、いしじまえいわの日記など関する気ままなブログです。

2004年11月25日「富野由悠季講演会in京都精華大学 アセンブリーアワー」体験記04

 監督の講演から質問コーナーへの移行は係員がナビゲートすることになっていたようですが、
実際には監督はコーナーを区切ることなくそのまま自分で質問を受け付け始めました。
場の雰囲気を制圧してしまう人だなあ・・・と思いました。


Q.1 物語を作るうえで必要なことは?
A.1 いつの時代でも通用する普遍性が必要。
   それを学ぶためには、神話や伝説が何故残っているのかを考えるといい。
   「私の気持ちをわかって〜」のような作品が流行っているが、普遍性がないからダメ。
   ではずっと残っていく真理とは何か? 分かりません。私は神じゃないから。


 ちなみに後で知ったことですが、この質問をされたのはあの有名なガンダムファンサイト
「しゃあぽ」の管理人さんだったようです。
さすがガンダムファンサイトの大手の管理人さん、監督の見識を引き出すナイス質問でした。


Q.2 近年のガンダム産業についてどう思われますか?
A.2 それで金もうけができて生活できる人がいるならいいんじゃねえか?
   産業を表面的に捉えてはいけない。いい作品を作るためにはパトロンが必要。
   「作品作りに金は不要」という考え方は危険。需要を見込むという視点がなくなってしまう。
   「金を取るからには、金を払っていただけるだけのクオリティをもったものを作る」
   という意識。


 このあたりは自分の卒論と同じ話でした。
ちゃんと自分の結論と監督の結論が一致したのには安心しました。


Q.3 現在のアニメ制作業界の貧困ぶりについてどうお考えですか?
A.3 飯が食えないのは論外としても、辛い状況はいいんじゃないか?
   チヤホヤしてもらえると思うな!
   プロであるからには、スケジュールやら締切りやらがある中でコンスタントにクオリティのあるものを要求される。
   おかげで自分は昔「コンテ千本切り」なんて悪口を言われたりもしたけど、
   なんでもやってたからガンダムができた。
   老人の発言かもしれないけど、苦労せよ。


 ちなみに私自身は「コンテ千本切り」が悪口だとは思っていなかったため、
監督の発言はかなり意外でした。
私としては監督のキャリアと仕事の速さを賞賛する言葉とばかり思っていたので。
 しかし、今考えると監督なりの謙遜だったのかな? という気もします。
だって監督の関連作品は『鉄腕アトム』に始まり、『巨人の星』『新造人間キャシャーン』『ペリーヌ物語
『ド根性ガエル』『アルプスの少女ハイジ』・・・挙げればキリがないくらいです。
まさにアニメ界の生き字引ですよ。


Q.4 アニメのことを「テレビマンガ」と言っていた理由は?
Q.4 自己卑下ではない。テレビマンガだろうと映画はできると言った!(いきなり怒り)
   ねえみんな? そう言ったよね?(と会場に同意を求める監督。いきなり和やかに)


 監督はそう言っていたけど、『アニメのことをテレビマンガと言っていた理由は?』
という質問から自己卑下ではないという答えを出してしまうあたり、
やっぱりアニメ作家であるということに劣等感があるのだなあ・・・と思いました。


Q.5 富野監督以外が作るガンダムについてどう思われますか?
A.5 どう思うも何も、何も思わない。見たことないから。
   本当は手放したくなかったけど、Vガン以降撤退せざるを得なくなってしまった。
   自分に力があればそれ以降のガンダムも自分ができたのに、と思うと辛くて見られない。
   だからSEEDも見ていません。嫌いです。


 監督が他のガンダム作品を見ていないらしいということは知っていましたが、
その理由は知りませんでした。
本人から直接聞く理由は、確かに「そりゃあ見たくないよな」と思える、かわいそうなものでした。
同時に「我は捨てられない」というようなことを前後で仰っていた気もします。


Q.6 先ほどの話に関連するのですが、どうすれば物語に普遍性が生まれますか?
A.6 個人ワークとスタッフワークの違いを考えること。
   自分は脚本家の持ってきた脚本を全部直します。
   だからシナリオライターの人には嫌われています。
   でも「無能なライターはいらない」かといえば、そうではない。絶対にいる。
   持ってきた脚本を全部直したとしても、そもそもそれがあったから直したものができるんだし、
   全部落としたとしても次がある。だから役に立っている。
   (ここで「『もののけ姫』以降の宮崎監督の作品は個人プレーゆえの失敗か?」と仰っていました)
   何かを全否定できるのは、否定できるものがそこにあるから。
   だからライターの人もその都度いちいち落ち込まずに、自信を持って欲しい。
   無視される価値がある。スタッフ一人抜けても困る。
   そういう意味で、SEED以降またテレビでガンダムをやりたい(ここで歓声、私も感動)。


Q.7 『Zガンダム』の登場人物は人格障害者ばかりに見えますが、
   意識して描いていたのですか?

 
 ・・・
 最後にドぎついのがきました。
 質問者は背が高くモサモサした髪型の男性で、いわゆるオタク的なナリでした。
やたら話が長かったのもオタク的でした。
上記のものはかなり短縮して質問の形に分かりやすくしたもので、
実際には「自分は看護体験があるから人格障害のプロだ」とかなんとか、
かなり痛々しいことをツラツラと述べまくっていました。
私の体調は一気に悪くなってしまいました。
ちなみに彼女によると、彼の腰にはエヴァのカヲル君のキーホルダーがついていたそうです。
 質問が終わったあと講義の終わりを告げるチャイムが鳴り、監督は沈黙しました。
チャイムが完全に鳴り終わるまでたっぷり沈黙したあと、
「鐘が鳴るのを待っていただけで、何も考えてなかったです」
と。
「そういう指摘はこの20年間1回もされてこなかったです。ありがとう」
と述べ、質問に答えだしました。


A.7 最初のガンダムが終わった後、いろいろロボット物をやらせてもらった。
   けど、ガンダムほどのものが作れなかった。
   そこで「ガンダムの続編をやらないか」と言われたのだから、
   自分の才能が無いんだと言われたのに等しく、悔しかった。
   そういう自分のゆがみを発見して、カミーユ(Zガンダムの主人公)ができた。
   戦争という環境でロボットなんか動かしてたらおかしくなるだろう
   と思ってああいうラストにした。
   あと、自分も将来そうなるだろうとも思ったが、Vガンの後に現実になった。
   でも∀で「生きないといけない」と気付いた。
   人間は死ぬまで元気でなければならない。
   穏やかな生き方、穏やかな金もうけ、穏やかな人格を作る方法を作って欲しい。


 〜 〜 〜
 

 この質問の返答を最後に、こんな感じで、拍手のうちに講演会は終了しました。
 この後握手会が開かれ、何百人もの人が監督の前に並びました。
列は大講義室の壁をつたい、後ろのドアから外まで伸びていました。
私自身は握手自体にはそんなに興味は無かったのですが、
監督を近くで見たかったので一応並びました。
前の方でマスターグレードのパーフェクトジオングを持った人が監督に話していました。
自分がデザインしたジオングバンダイに勝手に”パーフェクト”にされ、
無粋な足をつけられたものを見た監督の心情を考えると、私はゆううつになりました。
 私は監督の目の前まできましたが、監督はサインや握手で大変そうでした。
監督は一人ひとりにすごく親切に接していましたが、
「あのね、こんなに急いでサイン描かせてもいいのできないし、意味ないじゃない・・・」
と愚痴っているのが聞こえました。


 ちょうど私の前で係員の人が「サイン会は終了します」と宣言をしました。
私の後ろにもまだまだ人はいたので、無理やりにでも監督に話しかけようとする人もいました。
私と彼女はそっと列を離れ、そのまま教室を出ました。
 彼女と講義の内容について話しながら帰る時も、
私は監督とは別の形で会って話をしたいと思っていました。
できればその時自分が、監督とマンツーで話せる立場になれているとなおいいと思いました。


おわり。


※ここで書いた富野監督などのセリフは、かぎかっこに入っているものも含めて、
すべていしじまえいわとその彼女の書いたメモから起こしたものです。
そのため、正確にかぎかっこ内の言葉を喋っていたわけではありませんので、
その点ご了解よろしくおねがいします。
ただ、大体こんな感じの口調ではありました。