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アニメや特撮やゲームやフィギュアの他、いしじまえいわの日記など関する気ままなブログです。

2004年11月25日「富野由悠季講演会in京都精華大学 アセンブリーアワー」体験記03

映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

ガンダムが25年も持つ作品になった理由について。
 アニメはおもちゃを売るためのテレビまんがだと思われていたけど、
 自分は映画をやりたかった。
 だからおもちゃやさんの話は無視したが、ちょっと聞いた。
 だから3つの部品が合体してロボットになるようなものを出した」
 「職業人として受け入れざるをえなかった。
 スポンサーがいるからどうこう、ではなく、その日を生きるために必要なことだった」


 そのような感じで、監督は「よい作家」であることを志す前に、
いち社会人としてやっていくことを強調しようとしているようでした。
で、会場に聞きます。


「えー、じゃあ、グレンダイザーという作品を知っている人、挙手」


 会場では割と多くの人(1/3くらい?)が手を挙げました。
私は監督の意図がわかっていたので手を挙げませんでした。
たぶん監督は「そういう作品もあったけど、残ってないでしょ?」
という話にもって行きたかったのだと思います。
監督は『スーパーロボット大戦』というゲームのことを知らない様子でした。
予想外に多くの人が手を挙げたので、「おおーいっぱいいる。くやしい」
と言っていました。「グレンダイザー、ひどかったのよね」と漏らしたり。


 で、次いで


「じゃあザンボット・・・」


 と言いかけると、話し終わらないうちにこれまた多くの人が挙手しました。
『無敵超人ザンボット3』は監督の作品なので、当然会場での知名度が高かったわけです。
まあこちらもスパロボ効果もあるのですが・・・
監督は「ああ、いっぱいいる・・・ありがとうございます」と言って頭を下げました。


 「ザンボットやダイターン3のときはまだスポンサーに近かった。
 ガンダムのときは『映画』を作るぞ、おもちゃを売るだけのものはやめるぞ、と思った。
 アニメも映画だし、ライブも映画。
 最近びっくりしてるけど、音がついた動く絵ならなんでも映画と分からない人がいる」
 「『映画』を作ろうと思ったけど、僕はSFが分からないから困った。
 『鉄腕アトム』は好きだった。ヒュ−マノイドが東京で生活しているイメージがSF的なテイストだった。
 『アトム』は小6から中1まで好きだったけど、それ以外のSFは苦手だった。
 物語の舞台さえ準備できていればSFっぽく見えるだろうと思い、
 2〜3年前に知ったスペースコロニーを使うことにした」


 このあたりから、監督は重要なことに触れ始めました。


「子供のときに見た子供向けの映画はつまらなかった」 
「大人の映画は面白かった。だから映画を作ろうと思った」
「『ゴジラ』は嫌い。子供のおもちゃ箱みたいで」


 個人的には最後の発言はどうかと思いましたが(1作目は面白いので)、
話自体は盛り上がっていきました。


「大学に入って分かったのは、映画会社は子供向けの作り方を知っているということだった」
「今の作品の話をするとまずいから、昔の話をします。
 ヌーベル・バーグの映画がすごかった。僕には歯が立たなかった」
 ここで監督は「ヌーベル・バーグの映画が分からなかった」とも言っていたような気がします。
「僕には子供向けのものしか分からなかった。けど子供向けでは論外だ。
 だから子供が見ても面白い映画を作りたいと思った。
 ぶ厚い本は子供には読めないが、 映画は動く画+音なのだから、およそ物心ついた子供なら分かるはず。
 そこにきちんと作られた物語があれば、大人にも楽しんでもらえるだろうと思った」
「そういう狙いがあったから、最初のガンダムは毎週戦うシーンを抜いたらちゃんとした映画になるように作った。
 これは映画化が楽なつくりで、実験的でもあった。
 けど大人たちはそれが分からないから、話途中で(番組を)打ち切った。
 映画版がうけた時えさえ、松竹すら分かってくれなかった。
 20年後になって、商売になったから認められた」
「あの時(打ち切りが決まった時)、スポンサーに言われたのは
 『ロボットのこと、モビルスーツなんて言ってもわかんねえよなあ』ということ。
 僕は悔しかったけど、具体的な力を持ていなかったから抵抗できなかった」


 ここで監督はちょっとわらいながら語気を荒げてこういいました。


「僕はミヤザキシュンに勝ちたい! アカデミー欲しい!」


 私はすげえ、と思いました。


「僕みたいな下層階級・・・これはレトリックではなく本当に下層階級なものを、
 大人は平気で踏みにじる。
 それに対抗するためには、具体的な力を手に入れるしかない。
 『ロボットものなんてやってて・・・』という具体的な自覚が必要。
 狭いこと考えてると狭いことしかできない」


 ここらあたりで監督は宮崎監督について述べ始めました。
「『ハウル』はすごいから、謝りに行こうかと思ったけど、悔しいからけなすことにしました」


 ここらで会場から笑い。


「『ハウル』は実際すごいけど、同時代的な何か、感想が出るよね。
 あの人はほんとにアニメフェチでロリコンだ・・・」


 ここで会場爆笑。手を叩いている人もいた。
私はなんだかなあ、と思いました。
そもそもこの講演会を祭りか何かだと勘違いしてるんじゃないか、と思ったからです。
監督は何故かキョトンとした顔をしていました。
監督は「まあまあ」という感じで会場をなだめ、話の続きをしました。


「いや実際、宮崎監督はアニメフェチでロリコンです。
 でも、それだけではあんな映画は作れません。
 映画は物語だし、フィクションをいかに構築するかというリアリズムが必要
 (そういう意味では『ハウル』は極度の失敗作に近いかも、とも言っていました)。
 人物のちいさな仕草まで描き分けるセンスがいる。
 宮崎監督にはそれがある。だからさっき手を叩いていたヤツはバカです


 監督がそう言って会場はシーンとしてしまいましたが、私はスッとしました。
後で考えると、ロリコン発言で喜んでいたのは宮崎監督(そのもの)の「消費者」で、
監督はあくまで美大の生徒を「クリエイター」側だと考えていたからああ言ったのだと分かりました。


「・・・で、『ガンダム』が25年も生きてきた理由というのは、
 フィギュアにまで付加されるくらいな物語性がしっかりしているから」
ここは自分の卒論の結論といっしょだったので、個人的には嬉しかったです。


「『アトム』は好き。『ブラックジャック』はその次。他は嫌い。
 本当は時代劇に1ついいものがあるんだけど、ここでは言いたくない。
 ここで言いたいのは、一人の作家のものが全部面白いなんてのは嘘だ、ということです。
 だって、名作100本も作れねーよ!!


 こんな感じで、監督の講演は激しさの中で終了しました。
その後は質問を受け付ける時間が待っていました。
予習もばっちりだったので私個人は聞きたいことは特になかったのですが、
周りの人たちがどんな質問をするんだろう、ということには興味がありました。


 (追記)
 ちょうどこのあたりで監督はハッと我に返ったような顔をして、まるで素の雰囲気で
「おじさんは宮さん(宮崎監督)と会ったことある人だからね。
 僕は宮さんのことをいろいろ言ったけど、知り合いだから言ったんだよ。
 君たちはあんなこと言っちゃダメだよ?」
 と付け加えてました。
同僚でもあったこともある宮崎監督のことを「おじさん監督に会ったことあるんだよ?」
みたいに言っていたのがすごく面白かったです。


 04へつづく。