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2004年11月25日「富野由悠季講演会in京都精華大学 アセンブリーアワー」体験記02

教えてください。富野です

教えてください。富野です

 黒板脇の扉が開いて、何人かのスタッフと共に富野監督が登場しました。
私は富野監督を生で見るのは初めてでしたが、ガンダムエースで連載中の『教えてください、富野です』
などで散々予習をしていたから、どの人が富野監督かはすぐに分かりました。
というか、ちょっと知っている人だったら誰でもすぐに分かったと思えるようないでたちでした。
黒の上下のスーツに中は白いシャツで、ハワイ帰りの芸能人よろしくキャップを被っていました。
想像していたよりは小柄でしたが、監督の年齢とまわりのスタッフが若い人たちであることを考えると、
まあ適当な身長だったかもしれません。


 そして教壇に立ちキャップと上着を脱ぐと、サスペンダー姿でした。
私は興奮してノートに「サスペンダー」と書きこみました。


 スタッフの人が「『機動戦士ガンダム』シリーズなどで有名で、最近は『オーバーマン キングゲイナー
などでも活躍中の富野由悠季監督です」などと説明をする前後で、監督を拍手が起こりました。
監督はぼんやりと客席を見ながら自分も一緒に拍手をしていました。
そしてマイクのスイッチを入れて、富野監督が喋り始めました。


「こんにちは。先ほど紹介にあがりました、テレビまんがの監督の富野由悠季です」


 私は興奮してノートに「テレビまんが! テレビまんが!」と書きました。
富野監督は最初に、入り口で売っている本に関して話し始めました。


「今日、講演と一緒に本の販売をするという話は聞いてなくて、さっき見てびっくりした。
 そんなのは関知していないし、大学で本を売ったりするな! そしてみなさんも、
 そういう大学を信用してはいけません」


 続いて、


「今日これから話す話は、半分くらいの人にとっては期待外れ。面白い話は一切しないよ」


 いきなりの富野節連発で、会場はざわざわとしていました。
仕方ないとは思いましたが、私としてはすでに富野ウォッチング/講演拝聴モードになっていたので、
そういう会場の雰囲気に対しては「何をいまさら」と思ったし、
前のほうの通路席で視界をふさいでいる人や、私の後ろで監督の挙動や発言にいちいちつっこんでいる
ガノタガンダムオタク)連中の私語が非常に気に障りました。


 富野監督はチョークを手に取り、まず黒板に


技術=個性


 と書き、「個性」の字に大きくバッテンをしました。


技術が個性を殺す


 とも書きました。そして


「『マトリックス』以後、CGのせいでろくな映像がない。個性がなくなってきた。
実写でもアニメでも、綺麗なだけでいいのか」


「そういうものを過信している(業界の)連中にろくな先輩はいないと考えていい」


「とはいえ技術がないと表現できないので、技術が不要なのではない。
 ソフトウェアの技術と人間の技術をいっしょくたにするな」


 そして唐突に、


「以上の話が分かる人は、今日の講演の内容はもう分かっているので帰ってもらって結構です」


 と炸裂。


「個性のあるものを作れるということは、固有であることです。固有とは、特別なことです。
 で、この話が分かる人はもう出ていって結構です」


 とまた炸裂。しばらく話が止まりました。
監督は前で手を組んで退席する人がいないか待っているようでした。
そしてちょっと経った後に「みんな帰らないし、お金をもらいたいからつまらない話を続けます」
と言って話しだしたのですが、


「あ、今日はアニメファンの集まりじゃないんだから、ガンダムの話はしないよ。
 年寄りのかっこつけだから、アカデミックな話をします」


 などと言って会場の笑いを誘いました。
ちなみに同行していた彼女のメモには、書き取りしていたメモのここのところで、
うさぎ(のイラスト)が「(変な人…)」とコメントしていました。
私もまあそう思いました。


「CGが固有なものとは思えない。CGは省力化にすぎない。1000人のエキストラを集めなくて済む。
 安いからCGを使っているのに、最近では『CGっぽさ』をかっこいいと思っているスタッフがいる。
 そういうダメな人が業界に入ってきて、非アーティスト的アーティストに(制作の)金を払う。
 『ファイナルファンタジー』みたいなダメな映画に20億かけたりする。」


 ここで会場にちょっとした笑い。
私も監督の口から『ファイナルファンタジー』が出てくるとは思わなかった。


「学生は受け手に近いのだから、あのような表現が革新的なものだと勘違いするな。
 それでも『でもCGが好きなんだ』というのも、実はいい。けど、そこに落とし穴がある」


 富野監督が黒板の中央に


個性を伸ばそう


 と大きく書きました。ゴクリと唾を飲む私。


「みなさん学校で『個性を伸ばそう』とか『個性を大事にしよう』とか習ったと思います。
 私のときはそういうことは教えられなかったのですが…
 いいですか、みなさん個性というものは、ありません。
 もし君たちに個性というものが本当にあったら、20歳になるまでに社会に出て!
 自分の才能で何かをして! 自分でオマンマを食っているッ!

 それができないからお前らは!
 こ・ん・な (ドン! ドン! ドン!監督が地面を踏みつける音)大学に来て!
 毎日セックスばかりしてるんだろうがッ!


 もう会場ドン引き。
私は富野監督がこういう主張をする人だって知っていたから「またか…」で済んだけど、
それでも相応にショックではあった。
だから「ガンダムSEEDの監督きてるらしいよー」くらいのつもりで来てた美大生にとっては、
かなりキたんじゃないかなあ。
横で話を聞いていた彼女はボロボロ泣いているし。


「先日テレビで、高校生なのにプロからオファーがきている少年を見ました(ダルビッシュ君のこと)。
 私は彼について知りません。 でも彼は若いのに努力をしてきた、大人の顔をしてました。
 君たちの顔にはそういう苦労の後が見えない。楽してきた子供の顔です。金があるから努力をしない。
 だから、ちょっとがんばったら成功する。みんながんばらないから。
 だから、みなさんちょっとがんばってください」


 と、いきなりかわいらしくトーンダウン。
しかし会場はすでにこの程度のトーンダウンでは気楽になれない雰囲気になっていました。
後ろでうるさかったガノタもこの頃にはもうすっかり静かになっていました。


「私大は金が欲しいんだから、そこにいたらダメだと思わないとダメ。
 自分には個性とか才能とかないんだから、ちょっとでも才能があるヤツと仲良くなって、
 自分にないものを吸い取れ。ちゃんと見て、真似でもいいからその人に勝つようにがんばれ。
 周りの人との関係、仲間とかに力を入れろ。
 何かをしているとき、常に真剣に考えろ。
 そういうことをがんばってたら、50、60の私たちよりいいことができる。
 そして、もっと自由なことがある。
 才能があるヤツを踏み台にしろ!
 ちゃんとセックスし、ちゃんと浮気しろ!
 分からなかったら体を使え! 聞くのではなく、思え!
 このジジイを黙らせることを考えろ!


「自由にやればいいけど、自由にしすぎて人に迷惑をかけたらダメ。
 個人の権利を侵害するヤツは犯罪者なんだから出て行け!」


「私は神奈川県で最悪の高校に通ってました。
 息をしたりすると番長に骨を折られるから、仔羊のようにかわいく3年間過ごした。
 こんないいルックス、ロケーションのキャンパスに4年間も住んでると、
 それだけで気が済んじゃう。
 しかし、社会に出るときにキャンパスを持って出て行くんじゃない。
 社会で面接とかがあるとき、人は身なり、手振りを見る。
 だからそういうものを身につけないといけない」


 さっき監督が言っていた「大人の顔」「子供の顔」というのはそういうことか、と私は思いました。
で、ここで急転直下の話題転換で、監督は本の紹介をし始めました。


智慧の実を食べよう。

智慧の実を食べよう。


「この本に、イワイという東大の経済学者の話が載っています。それはこういうことです。
 大量に安いものを作って利益を得る時代は終わった(100円ショップは例外)。
 10年以内に、大量生産による利益はなくなる(モンゴルや中国の台頭によって)。

 この話は今日の講演の最後に取っておくつもりだったんだけど、
 もう喋っちゃいました」


 と何やら不機嫌そうに。とは言っても私たちのせいではないのですが…


「(量産による価値が相対的に減るので)価値を生むのは、個性、固有なもの。
 アメリカのファッション業界のデザイナーとかが例です。
 それと、すでにそうなっているけど、あまり私たちがそうだと意識しないいい例があります。
 それは車です。車は数年ごとにモデルチェンジしますね。私はあれが昔から不思議だったんです。
 そんなにすぐに性能が上がるわけでもないのに、と。
 年寄りだから性能が上がるとか考えてたわけです。
 でもあれは性能を売っているのではなく、デザインや個性を売っているんです。
 なので、個性について知りたかったら、車のデザイナーの出てきかたを調べてください


 「車を設計をするときのデザイナーの位置を考えてください。
 手前勝手にデザインを押し付けたりしたら、車として基本的な技術的なことと折り合いがつかない。
 だからデザインというのは、個人の仕事ではなくスタジオの仕事。スタッフワークになる。
 スタッフを構成できる人が本当に『できる人』。個人主義のヤツはダメだろう。
 では、『できる人』になるためにはどうすればいいか、というと…」


 と、ここまで言って富野監督はハッとした表情をしました。


「ホントにガンダムの話してないよね、ボク。
 講演のタイトルに『ガンダム』って書いてあるし
 (講演のタイトルは『ガンダムから考える。固有なものとは何か?』だった)、
 怒られたらギャラもらえないから、 これからガンダムの話をします」


 で、会場から笑い。
以降、スタッフワークと『機動戦士ガンダム』についての話題になっていきました。


 03へつづく。