大塚英志『「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか』、角川書店、2005
「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか (角川oneテーマ21)
- 作者: 大塚英志,大澤信亮
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/11/10
- メディア: 新書
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この本は2部構成になっていてます。第1部では日本のアニメがいかにディズニーの影響を受けてきたか(=昨今の「アニメは日本の文化である」的な言説がいかに間違いか)を取り扱い、第2部では国をあげての漫画/アニメビジネス政策がいかに杜撰なものかが実証的に述べられています。
私が読み取れた本書のメッセージは以下の通りです。
第1部
- 現在の漫画/アニメの基本的構造はディズニーの影響によるものであり、伝統文化とは言えない。
- 現在の漫画/アニメの基本的構造は戦時下に国策に則って形成されたものであることに対する注意が必要である。また、現在先祖がえりの様相を呈している。
- 「萌え」とはポルノの一種であり、その海外進出を後押しすることの意味を考えるべきである。
第2部
- いわゆる「アニメビジネスの盛り上がり」には、数字的な実体がない。国のやろうとしていることにも具体的なビジョンがない。
- アニメファンドなどは末端の制作者に金が届くシステムにはなっていない。
- 現在のアニメビジネスは、単なるアメリカ追従である。
- 漫画/アニメにあってハリウッドに真似できないのは、その倫理観である。
以上のような感じです。読み落し(書き落とし)がたくさんあるのはご了承ください。
「アニメビジネス」が失敗するだろうし、さっさと失敗して欲しい、という大方の主張は私も同じです。ですが部分部分では賛同できないところが多かったです。
第1部
- 仮に現在の日本の漫画やアニメがディズニーや戦争の影響によるものであり日本という国/土地の文化が与えた影響が全くないのだとしたら、何故世界中で同じような漫画やアニメが発達しなかったのでしょう? 大塚氏の主張は「漫画/アニメの全ての特徴が日本産ということではないというだけで、日本文化の影響が皆無というわけではない」ということだと思いますが、他の文化の影響が皆無な文化なんて存在しないことを考えれば、日本の文化の影響によって独自進化した漫画/アニメは日本独自の文化といって差し支えないと思います。もしかしたら大塚氏は「漫画/アニメは混じりっけなし100%日本の文化だ!」と主張する人たちの相手をしてきたのかもしれませんが…それならなんとなく分かる話です。
- 漫画やアニメに限らず、技術が戦時中に発達するのは普通のことです。そのことに過剰に反応する必要はないと思います。ただ大塚氏は、これまで研究者たちがそのことに無頓着すぎた(むしろ知らなかった)ことの方を問題にしている気もします。それなら、この主張の意味は大いにあると思います。
- 「萌え」にまつわる「萌え」とは男性による女性支配の一形態であるという主張については同意です。ただ、現在その「萌え」を積極的に肯定する女性たちさえいるので、そのメンタリティーについては考えていくべきだと思います。
第2部
- 日本アニメ映画のアメリカでの興行成績とビデオグラムの売上げをもって「アニメビジネスには実態がない」としている節があるけど、アニメビジネスの強みは関連商品の売上げの方にあるのでこの説明には意味がない。
- ポケモンビジネスと同じことはルーカスが『スターウォーズ』シリーズですでにやっている、ということだけど、同じシステムを使ってポケモンが目覚しい売上げを出したのは事実。どちらがオリジンかということは問題ではないので、単なる揚げ足取りでは…
- 日本のアメリカ追従政策について批判しているけど、その大塚氏が提示しているのは中国追従/対アメリカ政策。どちらが現実的かということを考えれば、今の日本の方針はそこそこ妥当なのでは?
- 漫画/アニメに宿命的に存在している倫理的命題は私も大切にして欲しいと思ってますが、一方で表現としての可能性を考えた時に、それらが踏み越えられていくことは必然なのでは? 芸術や美が倫理と共存するとは限らないのでは。
文句ばかり書きましたが、全体的な主張や情報はなかなか目から鱗なところもありました。上記のような事柄に興味のある方は、私の文句でゲンナリせずに読んでみてもいいかもしれません。
ただ、大塚氏の本には毎度お世話になっておいてなんなのですが、今回の本では何か変な雰囲気が出ていました。なんというか、全体的に業界関係者に対する文句(というか悪口)が多く、不必要なまでに反政府的なポリシーを主張してくるのがなんともアレな感じで…自称「サヨク」らしいのでまあいいんですが、あからさまに反政府・反米・親中で、親米路線だからダメ、戦争肯定だからダメ、漫画やアニメは向こう10年アジアでの著作権を放棄すべきである、なんて言われたらちょっと…というかかなり読み辛いです。あと、文章自体も変な呼びかけ体で気持ち悪かったです。
優れた分析・批判のできる方だけに、そういう変な味を出すのは抑えて欲しいと思いました。