ばるぼら『ユリイカ 2005年8月増刊号 総特集 オタクvsサブカル! 1991-2005ポップカルチャー全史』、青土社、2005
ユリイカ2005年8月増刊号 総特集=オタクvsサブカル! 1991→2005ポップカルチャー全史
- 作者: 加野瀬未友,ばるぼら
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2005/08
- メディア: ムック
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まず第一の失敗ですが、この本はサブカルチャーの現状についてのガイドブックとしては機能しませんでした。タイトルにこそ「1991→2005」とありますが、多くの文章がばるぼらというインタビュアーがサブカルチャーの権威らしき人物に「あなたのサブカル遍歴は?」という質問をするという形で構成されています。そのため思い出話がメインになっていて、サブカルチャーの系譜について知ることはできても、その先にある(はずの)サブカルチャー現在についてはほとんど何も見えてこないのです。そういうわけで、私の一番知りたいことには半ば答えてくれない本だったのでした。
しかし半ば答えてくれないということは、もう半分は答えてくれたわけです。その半分の答えとは「サブカルなるものは在りし日の勢いをもはや失い、規模縮小の一途をたどっている」ということでした。私はそもそもサブカルというものがどういうものなのかよく分からなかったのですが(サブカルチャーについては社会学の知識としてはある程度知っています。私が知らないのは「サブカル」と呼ばれる日本で独自発展を遂げたらしいサブカルチャーの一種についてです)、どうやら最近はあんまり流行っていないということは分かりました。これは読んで得したところです。
そういうわけで購入当初の疑問には半ば答えてくれたので、半ばヨシとしました。1300円の半分くらいの価値はあったと思います。
それはそれとして、この本にはいくつかの点でイライラさせられました。つまりイライラさせられたということが失敗だったわけです。
まずタイトルに「オタクvsサブカル!」とありますが、そういう対立があることを私は知りませんでした。サブカルというものについてほとんど知らないのだからそういう対立自体も知っているはずはなく、ここに興味の多くがが注がれました。そんな対立構造が本当にあるのか、あるとしたらどういう対立なのか。そう思ったわけです。
「オタクvsサブカル」に関して、本書のインタビュイーや寄稿者のほとんどが以下の二つの見解のどちらか、または両方という結論に落ち着いています。
- オタクvsサブカルの対立構造は、岡田斗司夫が90年代半ばに自分の著書で書いた「サブカルは一見オシャレっぽくて女の子にもてたりするが、オタクこそが日本文化の正当な担い手でありエリートなのだ」ということに端を発している。
- そもそもそんな対立はなかった。仲良くしよう。
ということです。
確かに岡田氏は当時オタク公民権運動みたいなことをしていました。90年代半ばのオタクに関する一般的な認識は、80年代末の幼女連続誘拐殺人事件でのマスコミのあおりを受けて「キモい・犯罪者予備軍」みたいな感じでした*1。そこから現在のようなオタクの地位向上のためには、岡田氏のやった東大オタク学講座のような一大プレゼンテーションは実際ある程度効果があったし、そのために「○○よりオタクは偉い」というような他を否定するような言説をとったのも事実です。
しかしこれらはオタクの価値の再発見を促すためのプレゼンだったわけで、普通「オタクってそういう見方もあるんだ」と思いはしても、真に受けて「サブカルは糞だ!」なんて思った人はいるんでしょうか? もしそういう人がいたとすれば、そのくらい言わないとオタクバッシングを止める方法はなかったという当時の実情を読み落としていると思います。もちろん『東大オタク学講座』なんかの本を読むだけではそういう情勢は見えにくいと思う。けど、岡田氏の言説が言わば必要悪だったことはもう歴然としている現在、今さら「オタクvsサブカル」を本のタイトルに持ってくるということは売名行為に近いんじゃないかなと思います*2。しかも多くのインタビュイーが「対立はなかった。仲良くしよう」と言っているのだからなおさらです。「オタクvsサブカル!」なんてタイトルをつける理由は、オタクを煽ることくらいしかないのです。
そういうわけで、都合により読むことになったいしじまえいわもなんだか煽られて買ってしまった気分になり、なんかイライラさせられたのでした。こういうことをするとオタク同様「なんかあいつらキモいな」という印象を与えてしまうので、よした方がいいと思いました。
あと巻末に載っていた「僕をオタクにしてくれなかった岡田斗司夫へ 断絶と反復と」という論考(と目次には書いてあった)が異様にアレだったのが印象的でした。もし興味がある方がおられたら読んでみてください。そして感想報告よろしくです。